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フルートの変遷 ~バロックから古典派まで~

公開日:2026.04.07 更新日:2026.04.07クラシック楽器音楽を始めよう♪楽器のお手入れ音楽のマナビ楽曲・アーティスト紹介

フルートの変遷 ~バロックから古典派まで~

現代のフルート奏者がリサイタルやコンクールで避けて通れないのが、バロック音楽と古典派音楽です。しかし、私たちが現在手にしている金属製のベーム式フルートと、当時の作曲家が想定していた楽器は、構造も音響特性も根本的に異なります。この時代のレパートリーを深く理解するためには、楽器の進化と当時の演奏習慣という二つの側面から、虚飾を排した事実を整理する必要があります。


バロック時代:トラヴェルソの黄金期と表現の多様性

17世紀後半、フルートは大きな転換点を迎えました。それまでの円筒管で指穴だけの縦笛(リコーダー)や横笛に代わり、フランスの楽器製作家一族であるオトテールらが、円錐管で1鍵を備えた「フラウト・トラヴェルソ」を完成させました。

この楽器は、リコーダーよりも強弱の変化がつけやすく、人間の歌声に近い繊細なニュアンスを表現できることから、急速にヨーロッパ全土へ普及しました。

1. ベルサイユの雅とJ.S.バッハの革新

バロック・フルートの歴史はフランスから始まります。オトテールやブラヴェといった音楽家たちは、装飾音を多用した優雅なスタイルを確立しました。一方で、ドイツのJ.S.バッハはこの楽器に極めて高い技術的・音楽的要求を突きつけました。

  • パルティータ イ短調 BWV1013:無伴奏で吹かれるこの曲は、循環呼吸に近い技術や、弦楽器のような跳躍を求められる難曲です。

  • 6つのソナタ:チェンバロとの対等な対話を重視し、バロック・ソナタの形式を完成させました。

2. テレマンとクヴァンツの功績

テレマンの「12のファンタジー」は、当時のフルートが持っていたすべての音色特性を引き出すように書かれています。また、フリードリヒ大王のフルート教師であったクヴァンツは、著書「フルート奏法試論」において、当時の演奏技法や審美眼を詳細に記録し、現代の古楽研究における最大の資料を残しました。


古典派時代:1鍵から多鍵へ、進化の歪みが育んだ技巧の変遷

18世紀半ばから19世紀初頭にかけての古典派時代、フルートは楽器構造の「過渡期」という荒波の中にありました。バロック時代の標準であった1鍵のトラヴェルソでは、音孔(トーンホール)の配置の関係上、特定の音程が著しく不安定になるという欠陥がありました。これを解消するため、半音階に対応する「追加の鍵(キー)」が次々と考案されましたが、皮肉にも鍵が増えるほど音色の均一性が失われるというジレンマに直面します。

この時代、モーツァルト(フルート嫌いなのに傑作フルート作品を多数生み出す)の陰に隠れがちですが、フルートの真の可能性を追求したのは、楽器のメカニズムに精通した「奏者兼作曲家」たちでした。


「フランスのモーツァルト」とウィーンの出版王

この時代のレパートリーを支えたのは、今日では専門家以外にはあまり名を知られていない二人の巨匠です。

一人は、パリ音楽院の教授も務めたフランソワ・ドヴィエンヌです。彼は「フランスのモーツァルト」と称されるほど、流麗で気品あふれる旋律を生み出しました。彼の残した12曲の協奏曲や数多くのソナタは、当時のフルートが持っていた機動力を最大限に引き出しており、現代の奏者にとっても古典派奏法の格好の教科書となっています。

もう一人は、楽譜出版業でも成功を収めたフランツ・アントン・ホフマイスターです。彼は自らもフルートを愛好し、膨大な数の独奏曲や室内楽曲を書き残しました。彼の作品は、当時のアマチュア貴族たちの需要に応えるだけでなく、ウィーン古典派らしい明快な形式感と、華やかなパッセージワークを兼ね備えています。


ハイドンと「ロンドン・トリオ」の親密な響き

交響曲の父、ヨーゼフ・ハイドンは、意外にもフルート独奏のための協奏曲を(真作として確定しているものは)残していません。しかし、彼の晩年の傑作である**「ロンドン・トリオ」**は、フルート2本とチェロという編成で、この楽器の持つ「親密な対話」の能力を極限まで高めました。

当時のロンドンはフルート愛好家が非常に多く、ハイドンは彼らのために、シンプルながらも知的なユーモアに富んだアンサンブルを提供しました。ここでは、オーケストラの一部としてのフルートではなく、室内楽の主役としての洗練された立ち振る舞いが求められています。


ベートーヴェンとロマン派への胎動

古典派の完成者でありロマン派の扉を開いたルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンにとって、フルートは若き日の重要な表現手段でした。

  • セレナード ニ長調 Op.25(フルート、ヴァイオリン、ヴィオラ)

    この曲で見せる軽やかさと躍動感は、フルートという楽器が持つ「光」の側面を完璧に捉えています。

  • フルート・ソナタ 変ロ長調(真作か否かの議論はある作品ですが・・・)

    後のロマン派ソナタへ繋がる、より重厚なピアノとの対等な関係性が示唆されています。

ベートーヴェンの交響曲においてフルートが担う役割(例えば第3番『英雄』や第6番『田園』でのソロ)は、それまでの装飾的な役割を超え、旋律の核心を担う「精神的な声」へと進化を遂げました。


専門的考察:交差指使いと初期キーシステム

古典派音楽を現代のベーム式フルートで演奏する際、最も留意すべきは、当時の楽器が持っていた「音色の陰影」です。

18世紀後半、4鍵、6鍵、そして8鍵へとフルートは複雑化していきました。現代のフルートはどの音も均一に響くよう設計されていますが、古典派時代の多鍵フルートは、特定の指使い(交差指使い)によって生じる「少しこもった音」と、鍵を使った「明るい音」のコントラストが、楽曲の転調や和声的な緊張感と密接に結びついていました。

例えば、短調のセクションで敢えてこもった音色の指使いが選ばれるといった、作曲家と楽器の「共犯関係」を読み解くことが、古典派演奏の真髄と言えます。


結論:完成された不完全さの美学

バロックからベートーヴェンの時代に至るフルートの歩みは、未完成な楽器であるフルートを、作曲家の創造性と奏者の技術によって補完し続けた歴史でした。モーツァルトが時に楽器の不完全さを嘆いたのは事実ですが、その不完全さゆえに、当時の音楽には現代楽器では失われがちな「危ういまでの繊細さ」「色彩のムラ」という魅力が宿っていました。

ハイドンの快活さ、ドヴィエンヌの優雅さ、そしてベートーヴェンの革新性。これらを現代のフルートで再現するためには、単に音符を正確に辿るだけでなく、鍵盤が増え、管体が太くなっていく中で当時の音楽家たちが何を追い求めていたのか、その情熱の軌跡を音に込める必要があります。

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