金管五重奏で演奏したい!社会人アンサンブルにおすすめのオリジナル作品を紹介
公開日:2026.04.07 更新日:2026.03.27クラシック楽器音楽のマナビ楽曲・アーティスト紹介
吹奏楽やオーケストラの華やかなサウンドを支える金管楽器。その最小単位にして最も濃密な対話を楽しめる形態が金管五重奏です。トランペット2本、ホルン、トロンボーン、テューバという標準的な編成は、1950年代にニューヨーク・ブラス・クインテットなどの活躍によって確立されました。
社会人として楽器を再開し、アンサンブルを組む際、多くのグループが「まずは親しみやすいポップスのアレンジものから」と手に取ります。しかし、金管楽器が持つ本来の響き、各楽器の限界に挑むスリル、そして五人が対等に音楽を紡ぎ出す喜びを真に味わうなら、金管五重奏のために書き下ろされた「オリジナル作品」に勝るものはありません。
今回は、歴史的な名作から現代日本を代表する人気曲まで、忖度抜きに「いま、大人のアンサンブルで演奏したい」珠玉のレパートリーを厳選してご紹介します。
目次
1. 金管五重奏の旧約聖書:ヴィクトル・エヴァルドの金管五重奏曲
金管五重奏の歴史を語る上で、ロシアの作曲家ヴィクトル・エヴァルドを避けて通ることはできません。彼は本職が土木技師でありながら、アマチュアのチェリストとしても活動していた異色の作曲家です。
金管五重奏曲 第1番 変ロ短調 作品5
19世紀末に書かれたこの作品は、まさに金管アンサンブルの原点です。当時の金管楽器は現代ほど機能的ではありませんでしたが、エヴァルドは弦楽四重奏のような緻密な書法を金管楽器に持ち込みました。
特徴は大きく3つ。
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ロマン派特有の哀愁漂う旋律
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金管楽器らしい重厚なハーモニー
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各楽器が歌い継ぐポリフォニックな展開
この曲の最大の魅力は、超絶技巧に頼ることなく、純粋な「歌」と「アンサンブルの調和」で聴衆を魅了できる点にあります。社会人団体にとって、持久力や高音域の制約を考慮しつつ、音楽的な深みを追求できる最高のテキストと言えるでしょう。
2. 20世紀の最高傑作:マルコム・アーノルドの金管五重奏曲
エヴァルドが「旧約聖書」なら、イギリスの作曲家マルコム・アーノルドによる第1番(作品73)は「新約聖書」と称されます。自身も優れたトランペット奏者であったアーノルドの筆致は、楽器の特性を知り尽くした「鳴りの良さ」が際立ちます。
金管五重奏曲 第1番 作品73
1961年に初演されたこの作品は、現代の金管五重奏のスタンダードを決定づけました。
古典的な3楽章からなる楽曲です。
第1楽章:トランペットの華やかなファンファーレと、それに対峙する低音セクションのコントラスト
第2楽章:シャコンヌ形式を用いた、緊張感あふれる内省的な響き
第3楽章:爆発的なエネルギーとテクニックが要求されるロンド
全曲を通して、金管楽器特有の輝きと、時に皮肉めいた知的なユーモアが混在しています。高い合奏能力が求められますが、五人の息がピタリと合った時の爽快感は他の追随を許しません。
3. 日本のアンサンブルシーンを彩る:高橋宏樹と八木澤教司
日本国内においても、金管五重奏のオリジナルレパートリーは非常に充実しています。特に吹奏楽の分野で活躍する作曲家たちの作品は、親しみやすさと芸術性のバランスが絶妙です。
高橋宏樹:文明開化の鐘
日本のアンサンブルコンテスト等でも圧倒的な人気を誇る一曲です。明治維新の頃の日本を彷彿とさせる和洋折衷のメロディと、金管楽器らしい輝かしいサウンドが特徴です。
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視覚的・聴覚的な分かりやすさ
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拍子の変化によるスリリングな展開
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各楽器に見せ場があり、満足度が高い
技巧的には中級程度ですが、アーティキュレーションの統一や拍感の共有など、アンサンブルの基礎体力を試される良作です。
八木澤教司:イントロダクションとアレグロ
祝祭的な雰囲気を持つ八木澤作品も、社会人の演奏会やイベントに最適です。「A Golden Daybreak(黄金の夜明け)」など、希望に満ちた旋律は奏者も聴衆も前向きな気持ちにさせてくれます。
4. 楽曲選びの現実的なアドバイス:大人のアンサンブルとして
社会人アンサンブルにおいて、曲選びは「成功の8割」を決めます。以下のポイントを意識することで、練習の効率と本番のクオリティを劇的に高めることができます。
1. 耐久力(スタミナ)の計算
金管五重奏は一人一役のため、休む暇がほとんどありません。特にアーノルドのような難曲に挑む際は、1曲の中で誰がどこで唇を休めることができるか、スコア上で確認しておく必要があります。
2. 音域(テッシトゥーラ)の確認
最高音だけでなく、その曲の「平均的な音域」が自分たちの実力に見合っているかを確認してください。無理な高音が続く曲は、練習の段階でバテを招き、合奏の質を下げてしまいます。
3. 編成のバリエーション
作品によっては、トロンボーンの代わりにユーフォニアムを使用したり、テューバの代わりにバストロンボーンを使用したりすることが可能です。オリジナル曲の中には指定楽器が厳格なものもありますが、団体のメンバー構成に合わせた柔軟な選曲も「大人の知恵」です。
結び:五人で創る、たった一つの音楽
金管五重奏のオリジナル作品に挑むことは、作曲家がその楽器のために用意した「最も輝く瞬間」を追体験することに他なりません。ポップスのアレンジでは味わえない、楽器同士が共鳴し、空間が振動する感覚。それを一度知ってしまえば、アンサンブルの虜になることは間違いありません。
まずはエヴァルドの美しい旋律に身を委ねることから始めてみてはいかがでしょうか。五人の息が重なったとき、そこには吹奏楽とはまた違う、濃密で贅沢な音楽の世界が広がっているはずです。
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この記事の監修者
鈴木 憲道 音楽ライター/作詞家・作曲家・演奏家・音楽教育者
国公立大学の音楽学部で作曲を学ぶ。


