ピアノはわざと音をズラしている?ストレッチ・チューニングとは
公開日:2026.01.27 更新日:2026.01.04クラシック楽器音楽のマナビ
ピアノの音が狂ってきたなと思ったら、誰を呼びますか?
そう、「調律師(ピアノチューナー)」さんですよね。
彼らは長年の修行で培った鋭い耳を使って、何時間もかけてピアノの音を整えてくれます。
でも、ふと疑問に思ったことはありませんか?
「今の時代、高性能なデジタルチューナー(音程測定器)があるんだから、機械を見ながら合わせれば一瞬で終わるんじゃないの?」
実は、ここにピアノという楽器の最大のミステリーがあります。
もし、ピアノのすべての鍵盤を、機械の数値通りに「完璧に」合わせたとしましょう。
そのピアノを弾くとどうなると思いますか?
答えは、「高音は低く沈んで聞こえ、低音はうねって聞こえる、非常に気持ち悪い楽器」になってしまうのです。
なぜ「正しい」はずなのに「美しくない」のか。今回は、調律師だけが知っている音の魔法についてお話しします。
目次
1. ピアノの弦は「理想的な弦」ではない

グランドピアノの内部
この謎を解く鍵は、ピアノの弦の「硬さ」にあります。
少しマニアックな物理の話になりますが、ついてきてくださいね。
理科の授業で習うような「理想的な弦」は、柔らかくてしなやかです。
しかし、ピアノの弦(ピアノ線)は鋼鉄製で、非常に太く、強い張力で張られています。つまり、「弦」というよりは「硬い棒」に近い性質を持っているのです。
「インハーモニシティ」という現象
弦をポーンと鳴らすと、メインの音(基音)以外に、倍音という高い音が同時に鳴ります。
通常、この倍音は「2倍、3倍、4倍…」と整然と並ぶはずなのですが、ピアノの弦は「硬い」ため、振動に誤差が生じます。
その結果、倍音の周波数が、理論値よりもわずかに高く(シャープ)なってしまうのです。
これを専門用語で「インハーモニシティ(不協和度)」と呼びます。
これが何を意味するかというと、ピアノの高音域に含まれる倍音は、私たちが頭で考える「ドレミ」よりも、実はちょっとだけ高い位置にあるということです。
2. わざとズラす魔法「ストレッチ・チューニング」

ここで問題が発生します。
もし、低い「ド」と高い「ド」を、機械通りにピッタリ合わせてしまったらどうなるでしょうか?
低い「ド」から出ている「少し高めの倍音」と、機械通りに合わせた「高いド」がぶつかり合い、ワンワンと唸るような不協和音が生じてしまうのです。
人間の耳は、これを「音が外れている」と感じます。
そこで調律師さんが行うのが、『ストレッチ・チューニング』という魔法です。
あえて、
★ 高音域は、理論値よりも高く(シャープ気味に)
★ 低音域は、理論値よりも低く(フラット気味に)
音程を引き伸ばして(ストレッチして)合わせる。
こうすることで、低い音に含まれる「上ずった倍音」と、高い音のピッチが綺麗に重なり合います。
結果として、和音を弾いた時に「カチッ」とハマる、輝きのある美しい響きが生まれるのです。
つまり、ピアノは「物理的なズレを、人間的なズレでカバーしている」楽器なのです。
機械が示す「正解」よりも、人間の耳が感じる「美しさ」を優先する。なんだかロマンチックだと思いませんか?
3. 電子ピアノとアコースティックピアノの決定的な差
この話を知ると、電子ピアノと本物のアコースティック(生)ピアノの違いがより深く理解できます。
多くの電子ピアノは、録音された音源を使っています。
もちろん、最近の高級機種はストレッチ・チューニングまでシミュレートしていますが、基本的には「計算された平均的な音」です。いつ弾いても、どの電子ピアノでも、同じように綺麗に整っています。
一方、生ピアノは一台一台違います。
弦の長さ、太さ、ボディの大きさによって「インハーモニシティ(倍音のズレ方)」が異なるからです。
調律師さんは、そのピアノの個性を耳で聞き取り、「このピアノが一番美しく歌うポイント」を探り当てて、一台だけのストレッチ・カーブを描きます。
だからこそ、生ピアノの音には、電子楽器にはない「有機的な揺らぎ」や「吸い込まれるような奥行き」があるのです。
4. 本物の「響き」を体感するレッスンの価値
「家では電子ピアノだから、調律なんて関係ないかな」
そう思われる方もいるかもしれません。
しかし、レッスンで「調律された本物のピアノ」に触れることは、あなたの「耳」を育てるために不可欠です。
倍音が複雑に絡み合った、濁りのない和音の響き。
それを肌で感じることで、「あ、今いい音が鳴った!」「これは少し汚い音だ」という聴き分ける力が養われます。
クラブナージ音楽教室では、定期的にプロの調律師によるメンテナンスを受けたピアノでレッスンを行っています。
機械的な数値ではない、人間が美しいと感じる「魔法のズレ」を、ぜひあなたの耳で確かめに来てください。
その耳で「本物の響き」を確かめませんか?
クラブナージ音楽教室なら、初心者の方でも最初からアコースティックピアノでレッスンが受けられます。
電子ピアノでは味わえない、空気が震えるような感動体験をお約束します。


