サックスの音作り|マウスピースとリードの『セッティング沼』
公開日:2025.12.21 更新日:2025.12.25クラシック楽器上達のコツ
サックスという楽器に憧れるきっかけ。それは多くの場合、「音色」ではないでしょうか。
夜のバーで流れるような、煙たくてハスキーなジャズの音色。
あるいは、ライブ会場を熱狂させる、突き抜けるようなファンキーで煌びやかな音色。
「いつか自分もあんな音を出してみたい」と思って楽器を始めてみたものの、いざ自分で吹いてみると、なんだか「ただのラッパの音」というか、深みがない…。
そう感じたことはありませんか?
もしかすると、あなたは今、運命の分岐点に立っているかもしれません。
ここから先は、サックス奏者が皆、悩み苦しみ、そして快感を覚える魅惑の世界。通称『セッティング沼』への入り口です。
今回は、サックスの音色を劇的に変えてしまう「マウスピース」と「リード」の深すぎる世界について、少しマニアックな視点も交えながら解説していきます。初心者の皆さんも、この知識があるだけで「理想の音」への到達スピードが段違いに早くなりますよ。
目次
1. 楽器本体よりも重要?音の心臓部「マウスピース」

多くの初心者が誤解していることがあります。
「良い音を出すには、何十万円もする高いサックス(本体)を買わなきゃいけない」と思っていませんか?
もちろん、本体のグレードも大切です。しかし、音のキャラクター(明るい、暗い、太い、鋭い)を決定づける要素として、本体以上に影響力が大きいのが、口にくわえる黒いパーツ、「マウスピース」なのです。
極端な話、プロの奏者は「安い入門用の楽器本体」に「自分に合った最高のマウスピース」を付ければ、良い音を出せます。逆に、「百万円の楽器本体」に「合わないマウスピース」を付けても、良い音は出ません。
それほど、この小さなパーツは重要なのです。
2. 【マニアック解説】音色を変える「バッフル」と「チェンバー」
では、マウスピースの何が音を変えるのでしょうか?
ここで少し専門的なお話をしましょう。マウスピース選びで必ず出てくる用語が「素材」と「内部構造」です。
① 素材の違い:ラバー vs メタル
マウスピースには大きく分けて2つの素材があります。
- ラバー(エボナイト):
黒いゴムのような素材。温かみがあり、太く柔らかい音が特徴。ジャズのスタンダードや吹奏楽でよく使われます。 - メタル(真鍮やステンレス):
銀色や金色に輝く金属製。パワーがあり、輪郭がはっきりした鋭い音が特徴。フュージョンやロック、R&Bなどで好まれます。
② 内部構造の違い:バッフルとチェンバー
ここが「沼」の深淵です。マウスピースの中を覗き込んだことはありますか?
息が通る内部の天井部分を「バッフル」、奥の広がりを「チェンバー」と呼びます。
例えば、「ハイバッフル」と呼ばれる、天井が高く(狭く)盛り上がった形状のマウスピースがあります。これは、息の流れるスピードを強制的に速くする構造になっています。
ホースの先を指で潰すと、水が勢いよく飛び出しますよね?あれと同じ原理です。
これを使うと、少ない息でも「ギャン!」という派手でエッジの効いた音が出やすくなります。
逆に、「ローバッフル・ラージチェンバー」と呼ばれる、内部が広々とした構造のものは、息が中でゆっくりと渦を巻くようなイメージです。
これにより、「ボフッ」という空気を含んだ、枯れた渋い音(サブトーン)が出しやすくなるのです。
3. 憧れのあの人に近づくための「近道」
構造の話が難しかった方は、単純に「憧れのプレイヤーと同じタイプを選ぶ」のが一番の近道です。
ジョン・コルトレーンのような「渋いジャズ」がやりたいなら
彼は主に「ラバー素材」で「チェンバーが広い」マウスピースを使用していました。
(有名なのは『オットーリンク』のヴィンテージラバーなど)。
このタイプを選ぶことで、あの太くてダークな、包容力のある音色に近づくことができます。「枯れた音」を目指すなら、まずはラバーの定番モデルで、内部が広めのものを試してみましょう。
キャンディ・ダルファーやデヴィッド・サンボーンのような「派手な音」なら
彼らの音は、聴く人を高揚させる煌びやかさがありますね。
彼らは主に「メタル素材」や「ハイバッフル」のマウスピースを使用しています。
(『デュコフ』や『レイキー』などが有名)。
もしあなたが「ファンクやロックバンドの中で、エレキギターに負けない音を出したい!」と思うなら、迷わずハイバッフルのマウスピースに挑戦すべきです。
4. さらに深い「リード」との無限の組み合わせ

マウスピースが決まっても、旅は終わりません。次に待っているのが「リード」です。
リードは消耗品ですが、メーカーやカットの仕方によって、音が全く変わります。
- ジャズ用リード: 先端が薄く、反応が良い。枯れた音が出やすい(アンファイルドカットなど)。
- クラシック用リード: 中心が厚く、音がまとまりやすい。
さらに、「マウスピースA」には「リードX」が合うけれど、「リードY」だと全く鳴らない…といった相性問題が発生します。
「このマウスピースに、あのリードの3番(硬さ)を合わせると、最高の音がする!」
この黄金の組み合わせ(セッティング)を見つけるために、サックス奏者は何十箱ものリードを買い、何個ものマウスピースを買い漁るのです。
これぞ、抜け出せない「セッティング沼」。でも、それがたまらなく楽しいのです。
5. 【注意】ネットの口コミだけで買うと失敗する理由
さて、ここまで読んで「よし、ネットで評判の良いハイバッフルのマウスピースを買おう!」と思った方。
ちょっと待ってください。
ネット通販での購入、特に初心者の方にはあまりおすすめできません。
なぜなら、マウスピースは「吹く人の口の形(アンブシュア)」や「歯並び」「息の圧力」によって、合う・合わないが激しいからです。
ネットで「最高!誰でもプロのような音が出る!」と星5つの評価がついているマウスピースがあったとします。
しかし、それはあくまで「そのレビューを書いた人」にとって最高だっただけ。
特にハイバッフル系のマウスピースは、コントロールが非常に難しく、初心者が吹くと「ピーー!」というリードミス(裏返った音)しか出ない、なんてことが日常茶飯事です。
「高いお金を出して買ったのに、全然音が鳴らない…」
こうして挫折してしまうのが、一番もったいないパターンです。
6. 結論:正解は「試奏」と「プロのアドバイス」にあり
では、どうすれば失敗せずに「理想の音」を手に入れられるのでしょうか。
答えはシンプルです。「実際に吹いて選ぶ(試奏)」こと、そして「自分の吹き方を見てくれるプロに相談する」ことです。
「初心者が楽器屋さんで試奏なんて、恥ずかしくてできない…」
その気持ち、痛いほど分かります。自分の音に自信がない中で、店員さんの前で吹くのは勇気がいりますよね。
だからこそ、音楽教室を活用してほしいのです。
教室の先生は、あなたの現在のレベル、口の形、そして「どんな音を出したいか」を一番よく理解しているパートナーです。
「君の今のアンブシュアなら、これくらいの開き(オープニング)のマウスピースが吹きやすいよ」
「そのリードだと硬すぎるから、こっちのメーカーを試してみよう」
そんな風に、あなたに代わって「今のあなたにベストな選択」を提案してくれます。
泥沼にハマって溺れるのではなく、楽しく温泉に浸かるようにセッティングを楽しみたいなら、ぜひプロのガイドを頼ってください。
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