フィドルって何?バイオリンとは違うの?
公開日:2025.12.14 更新日:2025.12.14クラシック楽器音楽のマナビ
映画のサウンドトラックや、おしゃれなアイリッシュパブで流れている音楽を聴いていると、「フィドル(Fiddle)」という言葉に出会うことがあります。
楽器の音を聴いてみると、どう見ても、どう聴いてもバイオリンのようだけれど、演奏者たちはそれを頑なに「フィドル」と呼ぶ。そんな不思議な光景を目にしたことはないでしょうか。
「フィドルって、バイオリンを一回り小さくした楽器のこと?」
「それとも、弦の本数が違う特別な民族楽器?」
そんなふうに疑問に思う方も多いはずです。実は、音楽の世界には、同じ楽器であっても演奏する場所やスタイルによって名前が変わるものがいくつか存在します。その代表格がこの「フィドル」なのです。
今回は、知っているようで知らない「フィドルとバイオリンの違い」について、音楽の専門用語をできるだけ使わずに解説していきたいと思います。これを読み終わる頃には、あの陽気な弦楽器の音が、今までよりもっと身近に感じられるようになっているはずです。
目次
結論:フィドルとバイオリンは「同じ楽器」です

最初にして最大の疑問に対する答えをお伝えしましょう。もしかすると少し拍子抜けしてしまうかもしれませんが、事実をお伝えします。
「フィドル」と「バイオリン」は、物理的にはまったく同じ楽器です。
楽器屋さんに行っても「フィドルコーナー」という別の棚があるわけではありませんし、フィドル専用の特別な木材が使われているわけでもありません。私たちがよく知る、あの美しい曲線を描く木の箱に4本の弦が張られた楽器、それがフィドルの正体です。
では、なぜ呼び方が二つもあるのでしょうか? それは、手に持っている「モノ」の違いではなく、それを扱う「人」や「音楽ジャンル」の違いによるものなのです。
少しイメージしてみてください。たとえば、あなたの下駄箱にある一足の「スニーカー」。
それを履いてオリンピックのマラソンに出場すれば、それは「ランニングシューズ」と呼ばれます。しかし、同じスニーカーを履いて渋谷の街へ買い物に出かければ、それは「ファッションアイテム」としてのスニーカーになります。
フィドルとバイオリンの関係も、これによく似ています。
- バイオリン(Violin): クラシック音楽やオーケストラで、楽譜に忠実に、格調高く美しい音色を奏でるとき。
- フィドル(Fiddle): 民族音楽やカントリー音楽などで、リズムに乗って、即興的に自由な音を奏でるとき。
つまり、燕尾服やドレスを着てコンサートホールで弾けば「バイオリン」、チェックのシャツを着てパブや野外フェスで足を踏み鳴らしながら弾けば「フィドル」。少し極端な例えですが、そのような文化的なニュアンスの違いが、この二つの言葉を分けているのです。
「バイオリンは歌い、フィドルは踊る」
両者の違いを表現する際によく使われる、とても素敵な言葉があります。
それが、「バイオリンは歌い、フィドルは踊る」というフレーズです。
クラシック音楽におけるバイオリンは、優雅なメロディを歌い上げることを最も得意とします。ビブラート(音を揺らす奏法)をきかせて、長く伸びやかな音を出す姿は、まるでオペラ歌手のようです。
一方、フィドルはどうでしょうか。フィドルが活躍する場面は、多くの場合、人々がダンスを楽しむ場所でした。アイルランドの酒場でも、アメリカ開拓時代の納屋でのパーティでも、音楽はダンスのためにありました。
そのため、フィドル奏者に求められるのは、美しく伸びる音よりも、「思わず体が動いてしまうようなリズム感」です。弓を細かく刻み、アクセントを強調し、打楽器のような役割も果たしながらメロディを奏でる。これが「フィドルは踊る」と言われる所以です。
フィドルが主役になる音楽ジャンル
「じゃあ、どんな音楽を聴けばフィドルの音が聴けるの?」という方のために、代表的なジャンルをいくつかご紹介しましょう。もしかすると、すでにどこかで耳にしている音楽かもしれません。
1. アイリッシュ音楽(ケルト音楽)
フィドルと聞いて真っ先に思い浮かぶのがこのジャンルです。映画『タイタニック』で、レオナルド・ディカプリオ演じるジャックがヒロインを連れて三等客室のパーティに参加するシーンを覚えていますか? あの場面で、とてつもない速さで演奏され、人々が手を取り合ってぐるぐると踊っていた音楽。あれこそがアイリッシュ・フィドルの真骨頂です。
悲しげなバラードから、息つく暇もない高速ダンスチューンまで、アイルランドの歴史と風土が詰まった音色が特徴です。
2. カントリー / ブルーグラス
舞台は変わってアメリカ。西部劇に出てくるようなカウボーイたちが愛した音楽です。ここでもフィドルは欠かせません。バンジョーやギターと一緒に演奏され、アメリカの広大な大地を感じさせるような、泥臭くも温かいサウンドを響かせます。
特に「ブルーグラス」と呼ばれるジャンルでは、フィドル奏者は超絶技巧を披露することが多く、まるでスポーツのようにスリリングな演奏を楽しむことができます。
3. 北欧の伝統音楽
スウェーデンやノルウェーなど、北欧諸国でもバイオリンは古くから民衆の楽器として愛されてきました。北欧のフィドル音楽は、透明感がありながらもどこか神秘的で、森や湖の風景が浮かんでくるような独特の響きを持っています。
よく聞く「ストリングス」とはどう違う?
ここで少し寄り道をして、もう一つよく似た言葉について触れておきましょう。ポップスのCDクレジットなどで見かける「ストリングス(Strings)」という言葉です。
「この曲、ストリングスが良いね」なんて会話を耳にすることもあるかもしれません。
ストリングスとは、特定の楽器の名前ではなく、「バイオリン・ビオラ・チェロ・コントラバスなどの弦楽器チーム全体」を指す言葉です。
J-POPのバラードや映画の感動的なシーンで、背景に流れる「フワーッ」とした美しい音の壁。あれがストリングスです。そこでは、個々の奏者の個性よりも、「全員で一つの完璧なハーモニーを作ること」が重視されます。
対してフィドルは、基本的に「個」が際立つスタイルです。多少音がかすれても、リズムが走っても、それが「味」や「熱量」として歓迎されます。整然とした美しさのストリングスと、人間味あふれる自由なフィドル。同じ弦楽器でも、役割がこれほど違うのは面白いですよね。
フィドル奏者ならではの「こだわり」
記事の冒頭で「楽器は物理的に同じ」とお伝えしましたが、実はプロのフィドル奏者(フィドラー)の中には、演奏しやすくするために楽器に少しだけカスタマイズを加えている人もいます。
ここは少しマニアックな話になりますが、知っていると通ぶれるポイントです。
駒(ブリッジ)を平らに削る
バイオリンの弦を支えている「駒」というパーツ。通常は綺麗なアーチ状をしていますが、フィドル奏者はこのカーブを少し平らに削ることがあります。
なぜかというと、フィドルでは2本の弦を同時に弾く「重音奏法(ダブルストップ)」を多用するからです。カーブが緩やかだと、隣り合う弦を同時に弾きやすくなり、より分厚く迫力のある音が出せるようになります。
スチール弦を使う
クラシックでは深みのある音が出るナイロン弦が好まれますが、フィドルでは「スチール弦(金属製の弦)」を愛用する人が多くいます。スチール弦は音が大きく、鋭い立ち上がりが特徴です。賑やかなパブや野外での演奏でも、他の楽器の音に埋もれず、遠くまで音を届けるために選ばれています。
まとめ:呼び方が変われば、心も変わる
フィドルとバイオリン。二つの名前を持つこの楽器は、音楽の多様性を象徴する存在と言えるかもしれません。
楽譜通りに完璧な美しさを追求するバイオリンも素晴らしいですが、楽譜から飛び出し、その場の空気をそのまま音に変えるフィドルの世界にも、抗いがたい魅力があります。
もし、あなたが「バイオリンを始めてみたいけれど、クラシックは敷居が高そうだな…」と感じているなら、ぜひ「フィドル」という入り口があることを思い出してください。
そこにあるのは、難しい作法ではなく、「音を楽しむ」という純粋な喜びです。足でリズムを取りながら、気の合う仲間とセッションをする。そんな自由な音楽の楽しみ方が、あなたを待っています。
あなたが手に取るその楽器を「バイオリン」と呼ぶか、「フィドル」と呼ぶか。それは、あなたがどんな風に音楽と付き合っていきたいかという、決意表明のようなものなのかもしれません。
本記事のまとめ
- フィドルとバイオリンは同じ楽器: 物理的な違いはなく、演奏するジャンルやスタイルによって呼び名が変わるだけ。
- 音楽性の違い: バイオリンは「歌う(メロディ・格式)」、フィドルは「踊る(リズム・即興)」と表現されることが多い。
- 主なジャンル: アイリッシュ、ブルーグラス、カントリーなどで「フィドル」の呼称が使われる。
- ストリングスとの関係: ストリングスは「弦楽器の合奏チーム」を指し、ソロや個性が重視されるフィドルとは対照的な存在。
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