『トゥルーバイパス』は正義か?バッファの重要性を再考する
公開日:2026.01.14 更新日:2025.12.14バンド楽器音楽のマナビ
エレキギターやベースを演奏する皆さん、エフェクター選びに熱中していますか?
楽器屋さんでエフェクターの箱を手に取ったとき、あるいはネットでスペック表を眺めているとき、必ずと言っていいほど目にする言葉があります。
そう、「トゥルーバイパス(True Bypass)」という言葉です。
この言葉には、どこか魔法のような響きがあります。「原音を損なわない」「ピュアなサウンド」「プロフェッショナルな仕様」。そんなポジティブなイメージとともに語られることが多いため、いつしか「トゥルーバイパス=正義」「バッファ=悪」という図式が、多くのギタリストの頭の中に出来上がってしまっているのではないでしょうか。
正直に告白しますと、私自身もかつてはそう信じ込んでいました。「せっかく高いギターを買ったのに、余計な回路を通したくない!」と、ペダルボードの中身をすべてトゥルーバイパス仕様のエフェクターで揃えようと躍起になっていた時期があります。
しかし、ある日ふと気づくのです。「あれ? なんか音が細くないか?」と。
実は、ここには大きな落とし穴があります。今回は、少しマニアックですが、知っておくと劇的に音が良くなるかもしれない「バッファ」と「トゥルーバイパス」の関係について、電気の知識がない方にもわかるように、じっくりと、そしてかみ砕いてお話ししていきたいと思います。
目次
そもそも「トゥルーバイパス」って何がそんなに偉いの?

なぜこれほどまでにトゥルーバイパスが持て囃されるようになったのか、その理由を知る必要があります。
エフェクターをOFFにしたとき(バイパス時)、ギターから来た信号がどのようなルートを通るか想像したことはありますか?
トゥルーバイパスというのは、スイッチをOFFにした瞬間、エフェクター内部の基板や回路を完全に切り離し、入力ジャックと出力ジャックをあたかも「一本の線」で直結したかのような状態にする仕組みのことを指します。
イメージとしては、エフェクターがそこには存在せず、ただの延長コードになったような状態です。
これが好まれる理由は単純明快です。昔のエフェクター(特にヴィンテージと呼ばれる古いもの)の中には、OFFにしているのに回路の一部が繋がったままで、そこを通るだけで音が劣化したり、音量が下がったりするものが多くありました。「音痩せ」と呼ばれる現象です。
「使っていないときは完全に無視してほしい!」というプレイヤーの切実な願いを叶えたのがトゥルーバイパスでした。余計なものを一切通さない。だから原音そのまま。この理屈は非常に分かりやすく、そして魅力的です。
しかし、この「原音そのまま」というのが、実は曲者なのです。
ギターの信号は、生まれたての子鹿のように弱い
ここで少しだけ、電気の話をさせてください。
重要なキーワードは「インピーダンス」です。
一般的なエレキギター(パッシブ・ピックアップを搭載したもの)から出力される電気信号は、「ハイ・インピーダンス」と呼ばれる状態です。
この「ハイ・インピーダンス」の信号、ものすごくざっくり言えば、「繊細で、外からの影響を受けやすく、疲れやすい信号」だと思ってください。生まれたばかりの子鹿のようにプルプル震えていて、守ってあげないとすぐに倒れてしまうような状態です。
ギターから出た直後の信号は、まだ元気です。しかし、この信号がアンプに辿り着くまでの道のりは過酷です。
- 3メートル、あるいは5メートルのシールドケーブル
- いくつものエフェクターを繋ぐパッチケーブル
- 接点の数々
これらを通るたびに、ハイ・インピーダンスの信号はどんどん体力を削られていきます。
具体的にどうなるかというと、「高音域(ハイ)」が削れていき、音がこもってしまうのです。さらに、ノイズも乗りやすくなります。
ここで問題になるのが、「全部トゥルーバイパスにした場合」です。
もしあなたの足元にエフェクターが5個あり、すべてがトゥルーバイパスだったとしましょう。すべてOFFにしたとき、電気的には「ギターからアンプまで、ものすごく長い1本のケーブルで繋がっている」のと同じ状態になります。
ギターから3mのシールド、エフェクター間の配線、そしてアンプまでの3mのシールド。合計すると6〜7m、あるいは10m近い長さになるかもしれません。
そんな長い距離を、あのか弱い「ハイ・インピーダンス」の子鹿(信号)が、誰の助けも借りずに走り抜けなければならないのです。アンプに到着する頃にはもうヘトヘトです。結果として、キラキラした高音が失われ、なんだかモコッとした、元気のない音になってしまいます。
これが、「トゥルーバイパスにこだわったのに音が悪くなる」というパラドックスの正体です。
嫌われ者の「バッファ」こそが救世主

そこで登場するのが、今回の裏主役「バッファ(Buffer)」です。
バッファとは、一言で言えば「屈強なガードマン」です。
バッファ回路を通すことで、か弱かった「ハイ・インピーダンス」の信号は、「ロー・インピーダンス」という状態に変換されます。
ロー・インピーダンスになった信号は、それはもうタフです。多少ケーブルが長くてもへこたれませんし、外からのノイズ攻撃にも強くなります。長いシールドを引き回しても、高音域が劣化しにくくなるのです。
「え、じゃあなんでバッファは嫌われているの?」と思いますよね。
その理由は、主に昔のバッファの性能にあります。一昔前の安価なバッファ回路を通すと、音が少しデジタル臭くなったり、わざとらしい味付けがされたりすることがありました。ピュアなギターの音を愛する人たちは、この「味付け」を嫌ったのです。「音が変わってしまうくらいなら、劣化してもいいからトゥルーバイパスがいい!」というわけです。
ですが、現代のエフェクターに搭載されているバッファは非常に優秀です。
自然な聴き心地のまま、信号だけを強くしてくれるものが増えています。有名なBOSSのコンパクトエフェクターなどは、すべてバッファードバイパス(OFFでもバッファを通る)ですが、世界中のプロが愛用しています。あれは、BOSSを経由することで信号が強くなり、トラブルに強い音になっているというメリットも大きいのです。
「トゥルーバイパス」と「バッファ」の最強の共存関係

ここまで読んでいただければ、もうお分かりですね。
「トゥルーバイパスが正義」でもなければ、「バッファが悪」でもありません。大切なのは「適材適所」です。
料理で言えば、素材の味を活かす(トゥルーバイパス)ことも大事ですが、痛まないように適切な保存処理(バッファ)をすることも同じくらい大事なのです。
おすすめのセッティング例
では、具体的にどうすればいいのでしょうか? 多くのプロミュージシャンやギターテックが推奨している、王道のセッティングをご紹介します。
「一番最初の入り口に、良質なバッファを入れる」
これです。ギターから出た信号を、できるだけ早い段階で屈強な「ロー・インピーダンス」に変えてあげるのです。
例えば、ペダルボードの一番最初に、BOSSのチューナーや、信頼できるバッファ内蔵のエフェクターを置きます。そうすれば、その後に続くケーブルが長くても、信号は元気を保ったままアンプまで届きます。
その後のエフェクターは、トゥルーバイパスのもので構いません。むしろ、一度バッファで強くなった信号であれば、その後ろにトゥルーバイパスのペダルがつながっていても、スイッチングノイズなどの悪影響を受けにくくなります。
ただし、例外もある
最後にひとつだけ、注意点をお話ししておかなくてはなりません。
音楽の世界には、理屈では割り切れない「相性」というものがあります。その代表格が「ヴィンテージ系のファズ(Fuzz)」というエフェクターです。

もしあなたが、「Fuzz Face」のような古い回路を持つファズを使っているなら、話は別です。彼らは非常に気難しい性格をしていて、ハイ・インピーダンス(か弱い状態)の信号を直接受け取ることで、あの独特のジリジリとした素晴らしい歪みを生み出します。
そんなファズの前に、親切心でバッファを置いてしまうとどうなるか。
「なんだこの元気すぎる信号は! 美味しくない!」とへそを曲げ、音がキンキンになったり、ボリューム操作への反応が悪くなったりしてしまいます。
ですから、ヴィンテージ・ファズを使う場合だけは、バッファよりも前、つまりギターの直後に繋いであげてください。これだけは、電気の効率よりも「楽器としての味わい」を優先すべき特別なケースです。
まとめ:自分の耳を信じよう
「トゥルーバイパス」という言葉は魅力的ですが、それだけが正解ではありません。
信号を守り、アンプまで元気に届けるためには、バッファという頼れる相棒が必要です。
スペック表に踊らされて「トゥルーバイパスじゃなきゃダメだ」と決めつけるのではなく、実際に繋いでみて、自分の耳で判断してみてください。
「バッファを通した方が、音がキラキラして好きだな」と思えば、それがあなたにとっての正解です。
今回の話が、あなたの理想のサウンドメイクのヒントになれば幸いです。
機材の奥深い世界、これからも一緒に楽しんでいきましょう!
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