シティポップとは|音楽ジャンル解説シリーズ
公開日:2025.11.19 更新日:2025.11.18バンド楽器音楽のマナビ
「夜のドライブ」「港のそばのカクテル」「都会の片隅で流れるFMラジオ」──そんな情景が音になったのが、“シティポップ”と呼ばれる音楽です。
名前からして“都会(City)”+“ポップ(Pop)”という分かりやすさがありながら、実際にはジャズ、ファンク、AOR(大人向けロック)、ディスコなどが混ざり合った、少し大人で、どこかノスタルジックな日本のポップミュージックです。今回はその由来、音の特徴、代表曲、それから近しいジャンルまで、音楽に詳しくない方にも楽しんで読んでいただけるように、やさしく解説いたします。
目次
1. シティポップという名前の由来と歴史

まずは名前から。「シティポップ(City Pop/シティ・ポップ)」とは文字通り「都会的なポップス」という意味合いを持ちます。日本が1970年代後半から1980年代にかけて、急速に都市化・経済成長を遂げた時期に、「もっと洗練されたポップを」「クルマで聴けるポップを」「夜の街に似合うポップを」という欲望の中で生まれました。
具体的には、1970年代中盤ぐらいから、既存の歌謡曲/フォーク/ニューミュージック(日本の言葉で言えば“ニュー・ミュージック”)の流れが少しずつ「西海岸サウンド」「AOR」「ファンク」「ディスコ」の影響を受けていきます。例えば、バンド Happy End が1970年代初期に提示した、都会の生活感やモダンなサウンドの先駆け的作品も“シティポップへの道”の一部とされています。
そして、日本経済がバブル期に突入した1980年代。豊かになった都市生活、クーラーの効いたクルマ、夜のドライブや海辺の休日といったシーンのBGMとして、シティポップは“サウンドトラック”としてちょうど良い存在になりました。
2. サウンドや構成の特徴
では、シティポップの音はどんなものか。ざっくり言うと、「ポップでありながら、少し大人っぽくて、心地よくて、ちょっとだけ贅沢」な音です。以下、その要素を整理してみましょう。
- 豪華なアレンジ/演奏:エレクトリックベース、クリーンなエレキギター、スムースなドラム、ホーン/ストリングス、シンセサイザー。録音クオリティも向上しており“音がキレイ”なことが多いです。
- 洋楽的なコード進行・リズム:例えばAOR(Adult Oriented Rock)や西海岸ロック、ファンクの影響で、セブンス・コードやナインス・コード、多彩なリズムが登場します。シンプルな歌謡曲よりも少し“オトナな構造”。
- テーマ・歌詞の“都会感”:郊外ではなく、都会の夕暮れ、海岸沿い、ドライブ、夜のバー、洗練されたデートなど。聞いているだけで「町に出てゆこう」「車で海まで行こう」という気分になる歌が多いです。
- 軽快かつ流麗なメロディ:耳に残るサビ、ひとつひとつの楽器が“歌って”いるような、華のある音作り。遊び心と技術が融合しています。
- インストゥルメンタルでも成立:もちろん歌入りが主流ですが、演奏重視・アレンジ重視の楽曲も多く、楽器だけで「聴かせる」曲も存在します。
こうしてみると「シティポップ=ただの懐かしポップ」ではなく、「洗練された都市的感覚を音で味わうポップ」と言うほうが近いでしょう。そしてその“背後にある余裕”や“遊び”が、バブル前夜の日本的空気と絶妙にリンクしています。
3. 代表的な楽曲3つほど
それでは「これがシティポップだ!」と言える名曲を3曲、初心者向けにご紹介します。
- Plastic Love/竹内まりや(1984)
海外でも“シティポップの代名詞”として語られる1曲。ヴァラエティ豊かな編曲、ファンキーベースライン、ポップなメロディと、少し切ない歌詞。日本語+英語混じりの歌詞も特徴的です。
- SPARKLE/山下達郎(1982)
“夏の夜とドライブ”的な爽快さとアレンジの緻密さが光る1曲。遊び心と技術が高い次元で融合しており、シティポップの典型とも言われます。
- Down Town/Sugar Babe(1975)
シティポップ前夜の作品ですが、町のネオン、夜遊び、クールな都会感を歌い上げた重要な先駆的楽曲。後のムーブメントに大きな影響を与えています。
他にも、大滝詠一 『A LONG VACATION』や 杏里 『オリビアを聴きながら』など枚挙に暇がありませんが、まずは上記3曲で「シティポップとは何だろう?」という感覚を掴んでいただければと思います。
4. 関連、近接ジャンル
シティポップは単独で存在するジャンルではなく、周囲の音楽と密に関わっています。以下のようなジャンルと近しい関係があります。
- AOR(Adult Oriented Rock):アメリカ発の“大人向けロック”で、シティポップと同時代・同体系の音楽。洗練されたサウンド、メロディ重視、夜/都会の雰囲気が共通しています。
- 洋楽ファンク・ディスコ/西海岸ポップ:シティポップのサウンド源泉。特にベースリフやホーンアレンジ、リズムの跳ね感などが反映されています。
- ジャズ・フュージョン:演奏の技巧やアレンジの豊かさという意味で、シティポップと親和性が高いジャンルです。特にインストゥルメンタル志向の作品にその影響が見えます。
- シティポップの再評価/拡張:スムースジャズ・LO-FI・未来ファンク(Future Funk):2010年代以降、ネットカルチャーにおいてシティポップ的音源がサンプリング・再解釈され、LO-FIシーンやVaporwave/Future Funkといったジャンルに影響を与えています。
こうして見ると、シティポップは「純粋な日本のポップス」ではあるけれど、そのルーツも行き先もグローバルで、多様な音楽と接続している“交差点”的な存在と言えます。
5. シティポップが今も愛される理由
では最後に、なぜ“昭和の都会ポップ”であるシティポップが、今この令和の時代にも、海外にも、若い人たちにも愛されているのかを考えてみましょう。
まずひとつに「ノスタルジー」があります。リアルタイムで聴いていた世代には“あの頃の気分”を、初めて聴く世代には“手の届かない憧れの世界”を提供します。「昭和の夜景」「クルマでドライブ」「青い海と夕焼け」…そのイメージが音とともに呼び起こされます。
次に「音の質」が非常に高いこと。録音技術、演奏クオリティ、アレンジともに“丁寧に作られた音”で、背景音楽としても、集中時のお供としても使いやすいのです。
さらに「ネット時代との相性」も理由のひとつ。YouTubeやTikTokで発掘されることで、海外ファンが「日本ってこういうポップを昔作ってたのか!」と遡って聴く流れが生まれました。特に、竹内まりや「Plastic Love」の世界的ヒットが象徴的です。
最後に「音楽のジャンル横断性」があります。ジャズ/ロック/ファンク/ポップが混ざっているからこそ、どこか“ジャンル垣根を越えた自由さ”があります。
ですから、「シティポップって何?」と思った方も、ぜひ一度ヘッドホンで夜の時間に聴いてみてください。 街の灯り、遠くで響くクルマの音、夕焼けの海──そういうものが音になって漂ってくるかもしれません。
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