カントリーとは|音楽ジャンル解説シリーズ
公開日:2025.11.15 更新日:2025.10.21バンド楽器音楽のマナビ
目次
カントリーという音楽ジャンルについて解説します
カウボーイハットとアコギ――カントリーはそんな記号で語られがちですが、実像はずっと立体的です。 アイルランドやスコットランドの民謡、黒人音楽のブルースやゴスペル、移民たちの生活、鉄道・開拓・教会・酒場……それらが合流して、「日常を物語として歌う」アメリカの国民音楽になりました。素朴で親しみやすいのに、耳を澄ますと高度な演奏技術と巧みな物語構成が潜んでいます。 ここでは“なぜカントリーは人の心をつかむのか”を、歴史・サウンド・名曲・近接ジャンルの順にやさしく解説します。
1. カントリーという名前の由来と歴史

「カントリー(Country)」は直訳すれば“田舎”や“郷土”。英語圏では country music と言えば 「都市の洗練よりも、暮らしの実感に根ざした歌」というニュアンスを含みます。 19世紀末~20世紀初頭、アパラチア地方や南部・中西部の農村で、移民が持ち込んだフォークソングと黒人音楽が交流。 フィドル(バイオリン)、バンジョー、ギター、教会のコーラスが同じ空間に鳴り響き、現在のカントリーの原型が形づくられました。
録音とラジオの普及により1920年代に大衆化。カーター・ファミリーは家族のハーモニーと 「カーター・ピッキング」と呼ばれる親指によるベース+メロディ奏法で人気を博し、ジミー・ロジャースは ブルースの語法やヨーデルを取り入れてスターに。ナッシュビルのグランド・オール・オープリー(1925年開始の長寿番組)は カントリーの聖地として定着します。
1930~40年代にはジャズやスウィングの影響を受けたウェスタン・スウィングが登場(ボブ・ウィルズ等)。 1950年代にはホンキー・トンク(酒場向けの生々しい歌、ハンク・ウィリアムズ等)と、 電化サウンドを基盤にしたロカビリー/ロックンロールが誕生。エルヴィス・プレスリーの台頭は、カントリーとロックの往来を加速させます。
1960年代、プロデューサーのチェット・アトキンスらがストリングスやコーラスを導入した ナッシュビル・サウンド(カントリーポップ)が台頭。一方、西海岸ではエレキ・テレキャスターを前面に出した ベイカーズフィールド・サウンド(バック・オーウェンス/マール・ハガード)が“泥臭い反逆”を掲げます。 1970年代はアウトロウ・カントリー(ウィリー・ネルソン/ウェイロン・ジェニングス)が既存の商業主義に対抗し、 1980年代はネオトラディショナル(ジョージ・ストレイト等)が古典回帰。1990年代には ガース・ブルックスやシャナイア・トウェインがアリーナ級のスケールで世界的人気を獲得し、 2000年代以降はカントリーポップ(初期テイラー・スウィフト)、オルタナ/アメリカーナ(ジェイソン・イズベル)、 2010年代のブローカントリー(パーティー志向)など、枝分かれを続けながら現在に至ります。
2. カントリーのサウンドと構成の特徴
カントリーは「物語(リリック)」「声(語り口)」「弾むリズム(身体性)」の三位一体。代表的な要素は次のとおりです。
- 楽器編成:アコースティック/エレクトリック・ギター、バンジョー、フィドル、マンドリン、ドブロ、ペダル・スティール、アップライトまたはエレキベース、ピアノ。テレキャスターの“ツワング”とペダル・スティールの“泣き”は象徴的。
- 和声・進行:Ⅰ-Ⅳ-Ⅴを中心に、ツー・ファイブや副属などを適度に使用。ブルース由来の12小節型も頻出。短く覚えやすいサビ先行か、ヴァースで物語→コーラスで総括の構成が基本。
- 歌詞(ストーリーテリング):故郷、仕事、家族、恋、信仰、ユーモア。具体的な地名や情景描写が多く、映画のワンシーンのように展開します。
- ナッシュビル数字譜:移調しやすいように度数で和音を表す記譜法(例:1 4 5)。現場での素早いアレンジ共有に必須。
- ボーカル・コーラス:リードの語り口を生かしつつ、三度上のハーモニーやコール&レスポンスでドラマ性を補強。
まとめると、カントリーは“簡単に聴こえるのに、演奏すると難しい”音楽。 音数は多くなくても、言葉の間合い・ピッキングの粒立ち・フィドルの泣き・スティールのポルタメントなど、 ニュアンスの積み重ねが曲の温度を決めます。
3. 代表的なカントリー楽曲3選
入門に最適、かつ時代と特色が見える3曲を厳選しました。
- Hank Williams「Your Cheatin’ Heart」(1952)
ホンキー・トンクの金字塔。素朴な三和音に伸びやかなメロディ、裏切りをテーマにした切実なリリック。 “語る歌”としてのカントリーの本質が体験できます。
- Johnny Cash「Ring of Fire」(1963)
マリアチ風ホーンと“boom-chicka”の推進力。最低限の素材で最大のドラマを生む、 ミニマルでタイムレスな名曲。低音ボイスの語り口も教科書的。
- Dolly Parton「Jolene」(1973)
ギターのアルペジオに乗る切迫感あるモノローグ。「彼を奪わないで」と女同士で心情をぶつける視点は、 カントリーの物語性とメロディの普遍性を世界に印象づけました。
4. カントリーと近接ジャンルの関係
カントリーは枝分かれの名人。隣接ジャンルを知ると、好きな“推し路線”が見つけやすくなります。
- ブルーグラス:高速テンポ、バンジョーとフィドルの技巧合戦。ハーモニーは宗教曲由来で明るい。
- ウェスタン・スウィング:スウィング・ジャズ+カントリー。スティールとフィドルが踊るダンスミュージック。
- ベイカーズフィールド:ツワングの効いたテレキャスターとドライなリズム。都会の光よりハイウェイの土埃。
- ナッシュビル・サウンド/カントリーポップ:ストリングス、女性コーラス、洗練されたアレンジでポップ市場へ橋渡し。
- アウトロウ・カントリー:反骨・自由・土臭さ。スタジオではなくツアーバスの空気感をそのままレコードに。
- アメリカーナ/オルタナ・カントリー:ロックやフォークとの境界を曖昧化。歌詞はより内省的・文学的。
- サザン・ロック/ハートランド・ロック:ロック側からの接近。ギターの厚みと語りの実直さを共有。
どの道筋でも、核にあるのは「身近な物語をシンプルに、誠実に歌うこと」。 カントリーのDNAは、ロック、ポップ、フォーク、映画音楽にまで静かに浸透しています。
5. カントリーが今も愛される理由
世界の音楽がハイテク化・グローバル化するほど、カントリーの“素手の温度”は価値を増します。 数コード、少ない言葉、でも心に残る。
笑い話も失恋も祈りも、three chords and the truth(三つのコードと真実)で十分だ―― カントリーの作り手たちはそう信じ、100年以上にわたって生活のディテールを歌い継いできました。
さあ、ハットもブーツも不要。必要なのは、あなたの日常だけ。
早速カントリーに飛び込んでみましょう。
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